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  • あと34本で、記事が消え始める作りだった

    あと34本で、記事が消え始める作りだった

    サイト全体を見直していて、あと34本で記事が消え始める作りになっていることに気づきました。

    エラーは出ません。ビルドも通ります。ただ、書いた記事が一覧にもサイトマップにも出なくなります。

    この記事で扱うこと

    件数の上限を置いたまま忘れると何が起きるか。なぜ気づけないのか。そして上限を上げるのではなく、外した話です。

    1行だけの問題だった

    CMSへの問い合わせに、こう書いてありました。

    posts(first: 100) {

    「最初の100本を取ってくる」という意味です。書いた当時は記事が10本もなく、100は十分に大きい数でした。

    いま66本あります。残り34本。

    101本目に何が起きるか

    ここが厄介なところです。何も起きません。

    確かめる場所 101本目を書いたあと
    CMSの管理画面 記事はある。公開済みになっている
    サイトの表示 正常。崩れない
    ビルド 成功する
    エラーの通知 来ない
    一覧・サイトマップ その記事だけ載らない

    気づく手段が、「あれ、あの記事どこへ行った」と思うことだけです。しかも消えるのは一番古い記事か新しい記事かも、並び順次第で変わります。

    上限を書いた本人は、上限のことを覚えていない

    この行を書いたのは半年近く前で、そのときは「100もあれば当分平気」と思って書いています。実際そのとおりでした。

    問題は、平気な期間が長いことです。長く問題が出ないと、その数字があること自体を忘れます。そして忘れたころに到達します。

    上げるか、外すか

    いちばん簡単なのは、100を500にすることです。1文字の修正で済みます。

    ただ、それだと同じ壊れ方が先に延びるだけです。500本書いたときに、同じように何も知らせずに消え始めます。そのときの自分は、いまより確実に忘れています。

    そこで、区切りそのものを外しました。

    posts(first: 100, after: 前回の続きの位置) {
      pageInfo { hasNextPage endCursor }
      ...
    }

    100本ずつ取って、「まだ続きがある」と言われているあいだは取りに行き続けます。記事が何本になっても、全部取れます。

    念のための打ち切りは、別の理由で置いた

    実は上限を1つ残しています。30回まで、という繰り返しの回数です。

    これは記事数のためではありません。相手が壊れていて「まだある」と言い続けたときに、公開作業が終わらなくなるのを防ぐためです。100本ずつなので、ここに達するのは3000本を超えてからになります。

    同じ「上限」でも、普通に使っていて到達するものと、異常時にしか到達しないものは別ものです。

    同じ数字が、もう1か所にあった

    直したあと、他にも同じ書き方が無いか探しました。サイトマップを作る処理にも、同じ100が入っていました。

    こちらのほうが影響は大きい。一覧に出ないだけなら内部リンクからは辿れますが、サイトマップから漏れると検索エンジンに存在を知らせる手段が減ります。

    両方とも同じ形に直しました。

    気づけたのは、数えたから

    この問題は、使っていても出てきません。見つかったのは、サイト全体を機械的に確かめていたときでした。

    やったのは単純で、数を数えることです。記事が何本あるか、サイトマップに何件載っているか、一覧に何枚並んでいるか。

    数えたもの 分かったこと
    記事の本数(66) 上限100まであと34本
    一覧のHTMLの大きさ 202KB。ほとんどが画面外のカード
    代替テキストの有無 62枚中21枚が未設定で、混ざっていた

    どれも見た目には出ていません。数えないかぎり、全部「問題なし」に見えます。

    今回の学び

    まず、「当分平気な数字」は、平気なあいだに忘れられるということ。書いた時点では正しい判断でしたが、正しさが長く続くほど、その存在を思い出すきっかけが無くなります。

    次に、上限を上げるのは、同じ壊れ方を先送りにするだけだということ。500にしても、500本目に同じことが起きます。そのときの自分が覚えている見込みは、いまより低い。

    そして、使っていて気づけない問題は、数えるしかないこと。表示は正常、ビルドも成功、エラーも無し。この状態で問題を見つける手段は、動かすことではなく数えることでした。

  • ソース解説(4) 速くしたら、デプロイが止まった

    ソース解説(4) 速くしたら、デプロイが止まった

    記事のデータは、共用サーバー上のWordPressから取ってきています。この部分は2回作り直しました。

    最初は「常に最新を取る」形。速度の問題が出て、キャッシュする形へ。すると今度は、デプロイが止まるようになりました。

    この記事で扱うこと

    問い合わせ部分のコードと、キャッシュを置いた場所、そして相手が「たまに失敗する」前提で書き直した話です。速くするための選択が、別の場所の壊れやすさを生んでいました。

    最初の形と、その代償

    以前は、問い合わせのたびに「保存しないで取ってきて」と指定していました。記事を公開したらすぐ反映される、という点では狙いどおりです。

    ただしこの指定があると、ページをあらかじめ組み立てておくことができません。訪問者が来るたびに共用サーバーへ問い合わせが飛び、その待ち時間がそのまま表示速度になります。

    実測で、最初の1バイトが返るまで約1.7秒でした。

    キャッシュを、どこに置くか

    ここで1つ引っかかりました。

    Next.jsには、通信の結果を保存しておく仕組みがあります。ところがそれが効くのはGETで取りに行ったときだけです。GraphQLの問い合わせはPOSTで送るので、通信のところに保存の指定を書いても素通りします。

    書いてあるのに効かない、がいちばん厄介

    指定を書いた側から見ると、設定はしてあります。エラーも警告も出ません。速くなっていないことでしか気づけません。

    「効くはずの場所に書いたのに効かない」ときは、その仕組みが何を対象にしているかを読み直す必要がありました。

    そこで、通信ではなく「関数の戻り値」を保存する仕組みに切り替えました。

    export const getPosts = unstable_cache(
      async () => {
        const data = await graphqlClient.request(GET_POSTS);
        return data.posts?.nodes ?? [];
      },
      ["posts"],
      { revalidate: 300, tags: ["wordpress"] },
    );

    これは通信の種類に関係なく効きます。引数も自動で鍵に含まれるので、getPostBySlug("a") と getPostBySlug("b") は別物として保存されます。

    末尾の ?? [] は「取れなかったら空の配列」。件数が0件なのと、取得に失敗したのを同じ形で返しています。一覧を表示する側から見れば、どちらも「並べるものが無い」なので、扱いを分ける意味がありません。

    タグは、まだ使っていない

    tags: ["wordpress"] は、あとから「この印の付いた保存を今すぐ捨てる」ためのものです。

    WordPressで記事を公開したときにVercelへ通知を送る仕組みを足せば、5分待たずに反映できます。いまは使っていませんが、後から足せるように印だけ置いています。後で足すときにデータの形を変えずに済みます。

    速くしたら、デプロイが止まった

    ここからが本題です。

    ページをあらかじめ組み立てるということは、組み立てるタイミングでCMSへ問い合わせに行くということです。訪問者が来たときではなく、公開作業の途中で。

    共用サーバーのWordPressは、混み具合によっては処理しきれずエラーを返すことがあります。以前は動的に組み立てていたので、そのときは「その1回の表示が失敗する」だけで済んでいました。

    ところが事前に組み立てる形にしたことで、1回の失敗がデプロイ全体を止めるようになりました。実際に止まりました。

    速さと引き換えに、壊れる場所が移動した

    遅いが止まらない形から、速いが止まる形へ移っていました。速度の話をしているつもりで、失敗したときに何が起きるかを一緒に変えていたことになります。

    失敗する前提で書き直す

    対処として、投げ直す処理を入れました。

    const MAX_ATTEMPTS = 3;
    const RETRY_DELAY_MS = [1000, 3000];

    待ち時間を置いているのは、すぐ投げ直しても、混んでいる相手には効かないからです。同じ瞬間にもう一度叩くのは、混雑を増やしているだけになります。

    そして、投げ直す相手を選んでいます。

    if (response.status >= 500 && attempt < MAX_ATTEMPTS - 1) {
      continue;
    }
    return response;
    返ってきたもの 意味 扱い
    500番台 相手側の不調 投げ直す
    400番台 こちらの要求が違う 投げ直さない
    通信そのものの失敗 届いていない 投げ直す

    400番台を投げ直さないのは、何度試しても同じ結果になるからです。要求の中身が間違っているのに3回投げるのは、単に3倍待つだけです。

    取れなかったときに、何を返すか

    RSSとサイトマップでは、さらに一段踏み込んでいます。

    let posts = [];
    try {
      posts = await getPostsForFeed();
    } catch (error) {
      console.warn("[feed] 記事一覧を取得できませんでした", error);
    }

    失敗しても、そのまま先へ進みます。記事が0件のフィードになりますが、フィードとしては成立する形で返ります。

    壊れているように見せないほうがいい場面がある

    ここで例外をそのまま外へ出すと、そのページ自体がエラーになります。購読アプリによっては「壊れている」と判断して購読を外します。

    一時的な不調のせいで、購読を失うのは割に合いません。中身が薄いものを返すほうが、被害が小さく済みます。

    サイトマップも同じで、記事が取れなければ固定ページの分だけを返します。不完全なサイトマップは、存在しないサイトマップよりは役に立ちます。

    問い合わせの道具を、あえて小さいものにした

    GraphQLの問い合わせには、高機能なものも使えます。それは選びませんでした。

    高機能なものが持っているのは、主にブラウザ側でのキャッシュ管理です。このサイトはサーバー側で組み立ててHTMLを返す形が中心なので、その恩恵をあまり受けません。受けない機能のぶんだけ、覚えることと依存が増えます。

    いま使っているのは「問い合わせ文を投げて結果を受け取るだけ」のものです。必要になったら後から差し替えられるよう、問い合わせの実行部分は1か所に集めてあります。

    今回の学び

    まず、効くはずの設定が効かないときは、対象を読み直すということ。保存の指定はGET専用でした。書いた側からはエラーも出ないので、速くなっていないという結果からしか気づけません。

    次に、速くする変更は、壊れ方も一緒に変えること。事前に組み立てる形にした時点で、失敗する場所が「表示」から「公開作業」へ移っていました。速度の話をしているつもりでした。

    そして、相手はたまに失敗する、を前提に書くこと。共用サーバーは混みます。投げ直す、取れなければ薄いものを返す、どちらも「相手が常に応えてくれる」という前提を外した結果です。前提を外すと、コードは少し増えますが、止まらなくなりました。

  • 推測させるのをやめる

    推測させるのをやめる

    検索エンジンに、推測させるのをやめる。

    今回入れたのは3つです。sitemap.xml、robots.txt、そして構造化データ。バラバラの施策に見えますが、やっていることは同じです。これまで相手に推測させていたことを、こちらから明示的に伝える。それだけです。

    この記事で扱うこと

    3つがそれぞれ何を伝えているか、順位と発見速度は別物だという話、そして実装時に踏んだ「一覧用のクエリを流用してはいけなかった」という落とし穴。SEOの小手先ではなく、仕組みとして何が起きているかの話です。

    3つとも「伝える」ための仕組み

    先に全体像を置きます。

    伝えていること 無いとどうなるか
    sitemap.xml どんなページが存在するか リンクをたどって発見されるまで待つ
    robots.txt どこを見てよいか / 地図の場所 全部を手探りで巡回される
    構造化データ そのページが何なのか HTMLの見た目から推測される

    右の列に共通しているのは、「無くても動くが、相手の推測に任せることになる」という点です。推測は当たることもあれば外れることもあり、こちらからは制御できません。

    sitemap.xml — 順位ではなく、見つかるまでの時間

    まず誤解を解いておきます。sitemapを置いても、検索順位は上がりません。

    これは「見つけてもらうまでの時間」を短くするものです。検索エンジンは通常、リンクをたどってページを見つけます。外部からのリンクがまだ少ない新しいサイトでは、存在しているのに気づかれない期間が生まれます。sitemapは、そのたどる作業を省いて一覧を直接渡す仕組みです。

    Next.jsのApp Routerでは、app/sitemap.ts に既定の関数を書くだけで /sitemap.xml が生成されます。XMLを自分で組み立てる必要はありません。

    app/sitemap.ts(要点)
    export default async function sitemap(): Promise<MetadataRoute.Sitemap> {
      const staticEntries = [
        { url: `${SITE_URL}/`,     changeFrequency: "weekly",  priority: 1   },
        { url: `${SITE_URL}/blog`, changeFrequency: "weekly",  priority: 0.8 },
        // ...
      ];
    
      const posts = await getPostsForSitemap();
      // ...
    }
    priority は「相対的な」重要度

    0から1の値ですが、これは検索エンジンに対する評価の申告ではありません。サイト内での相対的な優先度です。全部を1.0にすると差が無くなり、指定していないのと同じになります。

    20本の壁

    実装中に気づいた問題です。ここが今回いちばんの学びでした。

    記事一覧を取るための関数は、すでに用意してありました。getPosts() です。sitemapもこれを使えば済む——と思ったのですが、中身を見て手が止まりました。

    一覧用のクエリ
    query GetPosts {
      posts(first: 20) {   ← 20本で打ち切っている
        ...
      }
    }

    一覧ページに20本並べる、という表示上の都合でこうなっていました。これをsitemapに流用すると、21本目以降は「存在するのに検索エンジンへ知らせない記事」になります。

    気づかないまま進む種類の不具合

    この漏れは、エラーになりません。sitemapは正常に生成され、中身も正しく見えます。足りないことに気づく手がかりが、どこにもありません。公開記事がちょうど20本だったので、次の1本を公開した瞬間から静かに始まるところでした。

    教訓は単純です。「一覧に何本並べるか」と「検索エンジンに何本知らせるか」は別の話でした。同じ「記事一覧」という名前がついているせいで、同じものに見えていただけです。

    sitemap専用に、全件を取る関数を分けました。

    型生成への依存を、持ち込まない

    ここでもうひとつ判断が要りました。

    このプロジェクトのGraphQLクエリは、graphql-codegen が生成した型付きのドキュメントを経由しています。型が付くのは大きな利点ですが、制約がついてきます。クエリを1文字でも変えたら、型を作り直さなければなりません。そして作り直しにはCMSへ接続してスキーマを読む必要があります。

    得られるもの 引き換えに背負うもの
    型付きクエリ 取り違えを防げる CMSに繋がる環境でしか変更できない
    素の文字列 どこでも書ける 型は自分で書く

    sitemapが必要としているのは slug と modified の2つだけです。2つしか無いものを、取り違えようがありません。ここだけ素の文字列で問い合わせ、型は手で書くことにしました。

    仕組みの利点は、全部に適用しなくてよい

    型生成は良い仕組みですが、それに乗ることで「CMSに繋がらないと作業できない」という性質も一緒に受け取ります。その性質が邪魔になる場所だけ、外れてよいと判断しました。一貫性のために全部を揃えると、揃えた不便さも全部に広がります。

    robots.txt — 守っていないもの

    app/robots.ts を置くと /robots.txt が生成されます。中身はこれだけです。

    生成された robots.txt
    User-Agent: *
    Allow: /
    
    Host: https://www.kisaku.site
    Sitemap: https://www.kisaku.site/sitemap.xml

    ここで大事なのは、robots.txt はアクセス制限ではないことです。「クロールしてよい場所」を伝える取り決めであって、強制力はありません。守るかどうかは相手次第です。

    隠したいものを書いてはいけない

    「見られたくないから Disallow に書く」という使い方は逆効果です。robots.txt は誰でも読めるので、「ここに何かある」と書き残すことになります。本当に見せたくないものは、認証をかけるか、そもそも公開領域に置かないかのどちらかです。

    今回の実質的な役割は最後の1行、sitemapの場所を知らせることです。これがあると、Search Consoleに登録していない検索エンジンもsitemapを見つけられます。

    Host を書いているのは、このサイトが kisaku.site を www 側へ寄せているためです。どちらが正なのかを明示しています。

    構造化データ — 見た目から意味を切り離す

    3つめです。記事ページに、こういうものを埋め込みました。

    出力されるJSON-LD(抜粋)
    {
      "@type": "BlogPosting",
      "headline": "wwwのあるなしで、別のサイトになる",
      "datePublished": "2026-08-22T13:20:00",
      "dateModified":  "2026-08-22T14:21:46",
      "author":    { "@type": "Person", "name": "KiSAKU" },
      "publisher": { "@type": "Person", "name": "KiSAKU" }
    }

    画面には何も出ません。「これは記事で、公開日はこれで、書いたのはこの人」と直接伝えているだけです。

    これが無い場合、検索エンジンはHTMLの構造から推測します。「大きな文字だから見出しだろう」「日付っぽい文字列があるから公開日だろう」と。たいてい当たりますが、デザインを変えると解釈が変わることがあります。

    見た目を変えても、意味は動かない

    明示しておけば、日付の表示位置を変えても、見出しのサイズを変えても、伝わる内容は同じままです。装飾の変更が、意図せず情報を壊さない状態になります。

    パンくずも一緒に出す

    BreadcrumbList も併記しています。検索結果に出るパンくず表示のためです。

    階層
    ホーム › ブログ › (記事タイトル)

    ここで書く階層は、画面上の構造と一致させる必要があります。実際には無い階層を書くと、検索結果と実際のサイトが食い違い、逆効果になります。

    タグが途中で閉じないようにする

    細かいですが、実装上の注意点です。JSON-LDは <script> タグの中に書きます。もし記事タイトルに </script> という文字列が入っていたら、そこでタグが閉じてしまいます。

    対処
    JSON.stringify(jsonLd).replace(/</g, "\\u003c")

    < をユニコードのエスケープ表記に置き換えています。JSONとしての意味は変わらず、HTMLとしては無害になります。自分で書いた記事しか入らない場所でも、こういう箇所は塞いでおくほうが安いです。

    入れたら、実物で確かめる

    3つとも、公開後に実際のURLを叩いて確認しました。

    確認
    https://www.kisaku.site/robots.txt   → 4行が返る
    https://www.kisaku.site/sitemap.xml  → 固定ページ5 + 記事20 = 25件
    記事ページ → script[type="application/ld+json"] を読んで中身を検証

    特にsitemapは、件数を数えるまで安心できません。今回の20本の壁のように、正しく生成されているのに中身が足りない、という失敗があり得るからです。「エラーが出ていない」は「正しい」ではありません。

    今回の学び

    まず、3つとも「順位を上げる」ものではないこと。sitemapは発見までの時間を短くし、robots.txtは地図の場所を教え、構造化データは意味の推測を減らします。効果を正しく理解していないと、成果が出ないときに何を疑えばいいか分からなくなります。

    次に、似た名前のものを、同じものだと思わないこと。「記事一覧」という同じ名前でも、表示のための一覧と、検索エンジンへ渡す一覧は要件が違いました。流用は速いですが、要件が違うものを流用すると、後から静かに壊れます。

    そして、仕組みの利点は、全部に適用しなくてよいこと。型生成は良い仕組みですが、乗ると「CMSに繋がらないと変更できない」という性質も付いてきます。その性質が邪魔になる1か所だけ、外れる判断をしました。

    最後に、エラーが出ないことは、正しいことではないこと。sitemapの20本上限は、何のエラーも出さずに記事を落とし続けるところでした。出力されたものを数える、という確認をしなければ気づけませんでした。

  • なぜこの構成にしたのか — ヘッドレスWordPress + Next.js の技術選定

    なぜこの構成にしたのか — ヘッドレスWordPress + Next.js の技術選定

    ポートフォリオサイトを、素のHTMLで書かれた静的サイトから「ヘッドレスWordPress + Next.js」という構成に作り直しました。前回までの記事では、実際にやった作業と、そこでつまずいた内容を書いてきました。

    今回は少し引いた視点で、そもそもなぜこの構成にしたのかを書きます。技術選定の話です。

    結論から言うと、この構成は万人向けではありません。個人のポートフォリオという規模に対しては、明らかに過剰な部分があります。それでも選んだ理由と、その代わりに何を失ったのかまで含めて残しておきます。選定の記事は、良い点だけ並べても参考にならないと思うからです。

    まず全体像

    完成した構成はこうなっています。

    訪問者のブラウザ

    ↓  https://www.kisaku.site
    Vercel
    Next.js(App Router / TypeScript)
    ページの見た目を作って返す

    ↓  GraphQL(サーバー間の通信)
    お名前.com 共用サーバー
    https://cms.kisaku.site
    WordPress(管理画面 + データベース)
    WPGraphQL / ACF

    記事を書くのはWordPressの管理画面。表示するのはNext.js。両者はGraphQLというやり取りの決まりでつながっています。

    用語

    ヘッドレスとは「頭がない」という意味で、この場合の”頭”は表示部分を指します。WordPressから表示機能を切り離し、データを保管して受け渡すことに専念させる構成のことです。

    なぜヘッドレスにしたのか

    元のサイトは素のHTML・CSS・JavaScriptで書かれた静的サイトでした。表示は速く、構成もシンプル。悪くありません。

    ただ、実績を1件追加するのにHTMLを直接編集する必要がありました。文章の言い回しを直したいだけなのに、エディタでタグを探して、間違えないように書き換えて、アップロードし直す。これを何度か繰り返すうちに、更新のしやすさが欲しくなりました。

    ここで普通に考えると、選択肢は2つあります。

    案 内容 更新のしやすさ 表示の自由度
    A 普通にWordPressテーマを作る ◎ △(PHPのテーマの作法に従う)
    B ヘッドレス構成にする ◎ ◎(フロントは完全に自由)

    案Aで十分だったと思います。実際、更新のしやすさだけが目的ならそれが正解です。

    それでも案Bを選んだ理由は2つあります。

    ひとつは表示側を自由に作りたかったこと。WordPressのテーマを作る場合、PHPのテンプレート階層という作法に沿うことになります。慣れれば速いのですが、今回は「もとのサイトの見た目を保ちつつ、新しい書き方で作り直す」のが目的だったので、表示側は白紙から書きたかった。

    もうひとつが正直なところ大きいのですが、学習目的です。普段の実務ではヘッドレスCMSやGraphQL、Next.jsのApp Routerに触れる機会がありません。自分のポートフォリオという、壊れても誰も困らない題材で試してみたかった、というのが本音です。

    注意

    技術選定において「学習目的」は立派な理由になりますが、それが理由であることを自覚しておくのは大事だと思います。仕事で同じ判断をするなら、案Aのほうが妥当な場面は多いはずです。

    なぜWordPressを残したのか

    ヘッドレス構成にするなら、データを持つ側はWordPressである必要はありません。microCMSやContentfulのような最初からヘッドレス前提で作られたCMSもあります。

    それでもWordPressを選んだ理由は3つです。

    1. 管理画面の完成度

    記事を書く画面、画像をアップロードする画面、カテゴリを整理する画面——WordPressのそれらは20年かけて磨かれています。自分で書くつもりなら、この使い勝手は無視できません。

    2. ACFによる構造化

    今回のサイトには「実績」と「スキル」という、普通の記事とは形の違うデータがあります。

    実績: タイトル / 説明 / 役割 / 期間 / 使用技術 / カテゴリ / 画像
    スキル: 名前 / 習熟度(10段階) / 説明 / カテゴリ

    これを本文にベタ書きすると、あとで「使用技術だけ一覧したい」といった扱いができません。ACF(Advanced Custom Fields)というプラグインを使うと、こうした項目を管理画面に専用の入力欄として追加できます。

    入力する側から見ると「役割」「期間」という欄が並ぶだけですが、データとしてはきちんと項目に分かれているので、表示側で自由に組み替えられます。

    3. 自分が慣れている

    実務でWordPressのテーマ制作をしてきたので、管理画面の構造もカスタム投稿タイプの考え方も分かっています。新しいことを1つ試すときは、他をなるべく既知のもので固める——今回はフロントエンド側で新しいことをたくさんやるので、CMS側は慣れたもので押さえておきたかった、という判断です。

    補足

    「学習目的だから全部新しくする」は失敗しやすいやり方です。問題が起きたとき、原因の候補が多すぎて切り分けられなくなります。実際この作業でも、原因を2回外して数時間を溶かしました。既知の部分が多いほど、その切り分けは楽になります。

    なぜNext.jsなのか

    表示側にはNext.jsを選びました。ReactというUIライブラリをベースにしたフレームワークです。

    選定理由は、サーバー側でデータを取ってHTMLを組み立てられる点にあります。

    Reactだけで作ると、ブラウザ側でJavaScriptが動いてからデータを取りに行く形が基本になります。この場合こういう流れです。

    【ブラウザ側で取得する場合】
    1. ブラウザが空っぽのHTMLを受け取る
    2. JavaScriptを読み込んで実行する
    3. そこからAPIにデータを取りに行く
    4. 返ってきたデータで画面を描く
       → 4に到達するまで、画面には何も出ない
       → 検索エンジンにも中身が伝わりにくい

    Next.jsのサーバーコンポーネントを使うと、この流れが変わります。

    【サーバー側で取得する場合】
    1. サーバーがWordPressからデータを取る
    2. サーバーが中身の入ったHTMLを組み立てる
    3. ブラウザは完成したHTMLを受け取る
       → 最初から中身が見える
       → 検索エンジンにも内容が伝わる

    ポートフォリオは検索から見つけてもらうことに意味があるサイトなので、この違いは重要でした。

    ちなみにこの選択が、後の大トラブルの前提にもなっています。サーバーがサーバーを呼ぶという通信経路ができるため、ブラウザから確認しても分からない問題が起きうるのです。実際、SSL証明書の不一致でデータが一切取れないという事態に陥りました。詳細は前回の記事に書いています。

    なぜGraphQLなのか(RESTではなく)

    WordPressには標準でREST APIという仕組みが備わっています。追加のプラグインなしで使えます。それでもGraphQLを選びました。

    RESTの場合に起きること

    REST APIは「URLごとに決まった内容が返ってくる」方式です。実績一覧が欲しければ、こう叩きます。

    GET /wp-json/wp/v2/project

    返ってくるのは、その投稿タイプが持つほぼ全部の項目です。使うのがタイトルと画像とカテゴリだけでも、更新日時も編集履歴のIDもコメント設定も付いてきます。

    さらに困るのが、関連するデータが別のリクエストになることです。

    1. 実績一覧を取る          → GET /wp/v2/project
    2. 各実績のカテゴリ名を取る  → GET /wp/v2/project_category?include=...
    3. 各実績の画像URLを取る     → GET /wp/v2/media?include=...
       → 画面ひとつ描くのに3往復

    GraphQLの場合

    GraphQLは「欲しい項目を書いて送ると、その形で返ってくる」方式です。

    query GetProjects {
      projects(first: 100) {
        nodes {
          title
          uri
          featuredImage { node { sourceUrl altText } }
          projectCategories { nodes { name slug } }
          projectDetail { role period toolsused }
        }
      }
    }

    これで1回のリクエストです。画像もカテゴリもACFの項目も、まとめて必要なぶんだけ返ってきます。

    決め手は型の自動生成だった

    ただ、往復回数の削減だけならRESTでも工夫でどうにかなります。決め手になったのは別の点でした。

    GraphQLにはスキーマという「どんなデータがどんな形で存在するか」の定義があり、これを機械が読み取れます。この性質を利用したのが GraphQL Codegen というツールです。

    npm run codegen

    これを実行すると、書いたクエリを読み取ってTypeScriptの型定義を自動生成してくれます。結果として、エディタ上でこうなります。

    project.  ← ここまで打つと、使える項目が候補に出る
    project.titel  ← 打ち間違えると即座に警告が出る

    ACFで項目を追加してWordPress側の構造が変わっても、コマンド1つで型が追従します。手で型を書き直す必要がありません。

    選定の勘所

    GraphQLの利点として真っ先に挙げられるのは「必要な項目だけ取れる」ことですが、個人サイト規模ではその差は体感できません。実際に効いたのは型の自動生成でした。 よく語られる利点と、自分の状況で効く利点は違うことがあります。

    なぜVercelなのか

    Next.jsを公開する場所として、Vercelを選びました。Next.jsを作っている会社が運営しているサービスです。

    理由は3つあります。

    1. GitHubに置くだけで公開される

    GitHubにコードをpushすると、Vercelが自動で検知してビルドし、公開まで済ませます。手作業のアップロードが要りません。今回の作業でも、修正をpushするたびに自動で本番へ反映されました。

    2. 設定がほぼ不要

    Next.jsのプロジェクトだと自動で判別され、必要な設定はほぼありません。実際に指定したのは2つだけでした。

    Root Directory : frontend
    環境変数        : NEXT_PUBLIC_WORDPRESS_API_URL

    3. 個人利用なら無料

    ポートフォリオ程度のアクセス数なら無料枠に収まります。独自ドメインの接続もSSL証明書の発行・更新も無料で自動です。

    SSL証明書は通常90日で期限が切れ、更新が必要です。これを忘れるとサイト全体が「安全でない接続」と表示されて事実上使えなくなります。Vercelはこれを自動でやってくれるので、運用の手間がひとつ消えます。

    なぜCMSは共用サーバーのままなのか

    ここは技術選定というより、現実的な事情です。

    WordPressをVercelに置くことはできません。PHPとデータベースが必要だからです。置き場所は別に必要になります。

    選択肢はいくつかありましたが、もともとお名前.comの共用サーバーを契約していて、旧サイトがそこで動いていました。新しく契約すれば月額が増えます。既存の契約で足りるなら、それでいい。

    ただし、この判断には代償がありました。

    実際に起きたこと

    共用サーバーは設定の自由度が低く、次の問題に当たりました。SSL証明書がホスト名と一致せずVercelから接続できない、PHPの設定ファイルがディレクトリごとにしか効かない、WordPressが /wp/ という予期しない場所にインストールされる、クエリ文字列付きのアクセスがWAFに遮断される。安く済ませたぶん、原因調査に時間を使いました。

    とはいえ、これらは調べれば分かる範囲の問題でした。学習目的という文脈では、むしろ良い題材だったとも思っています。

    この構成で払った代償

    ここが、この記事でいちばん書きたかった部分です。

    1. 管理する場所が2つになった

    静的サイトなら、置き場所は1つでした。いまは2つです。それぞれにドメイン、SSL証明書、更新、バックアップの管理が発生します。

    【静的サイト】 1箇所
    【今の構成】   Vercel + 共用サーバー = 2箇所
                   + GitHub(コードの置き場所)= 実質3箇所

    2. CMSが落ちるとサイトが空になる

    これがいちばん大きい代償です。表示側と、データを持つ側が分かれているということは、データ側が落ちると表示側は空を返すということです。

    実際、SSL証明書の問題でWordPressに接続できなかったとき、サイトは正常に表示されるのに実績もスキルも記事も1件も出ない状態になりました。しかもHTTPステータスは200なので、普通の死活監視では検知できません。

    静的サイトなら、こんなことは起きません。HTMLに中身が書いてあるからです。

    3. 分業ゆえの複雑さ

    ヘッドレス構成では「サーバーがサーバーを呼ぶ」経路ができます。この経路はブラウザからは見えません。

    従来:ブラウザ → WordPress
    今回:ブラウザ → Next.js(Vercel) → WordPress
    ※ 後半の「Next.js → WordPress」はサーバー同士の通信なので、ブラウザの開発者ツールからは確認できない。

    今回、ブラウザからは正常にアクセスできるのにサーバーからは失敗する、という状況で数時間はまりました。確認方法そのものを間違えていたわけです。この落とし穴は、構成を分けたことの直接の帰結です。

    4. ビルドという工程が増えた

    静的サイトはファイルを置けば公開できました。いまはビルドが必要で、そこが失敗すると公開できません。実際、最初のデプロイは自動生成ファイルの不足で失敗しています。

    静的サイト 今の構成
    更新のしやすさ ×(HTML直接編集) ◎(管理画面から)
    表示側の自由度 ◎ ◎
    管理する場所 1つ 3つ
    壊れにくさ ◎ △(CMSに依存)
    公開までの手数 ファイルを置くだけ ビルドが必要
    学べること 少ない 多い

    選ばなかった選択肢

    静的サイトジェネレータ + Markdown

    AstroやHugoなどで、記事をMarkdownファイルとして書く方式です。CMSが不要になるので、構成は圧倒的にシンプルになります。管理場所も減り、CMSが落ちる心配もありません。

    選ばなかったのは、記事を書く体験を落としたくなかったからです。画像の挿入、下書きの管理、公開日の設定——このあたりはWordPressの管理画面のほうが圧倒的に楽です。文章を書くこと自体のハードルは下げておきたい、と考えました。

    ヘッドセスCMS(microCMS / Contentful など)

    最初からヘッドレス前提のCMSです。サーバーの管理が不要になるのが大きな利点で、今回はまったSSL証明書やPHP設定の問題は最初から発生しません。

    選ばなかった理由は、既にWordPressの資産(記事・画像・構造)があったこと、そして自分が慣れていることです。ゼロから始めるなら、こちらのほうが素直だと思います。

    WordPressのテーマとして普通に作る

    冒頭に書いた案Aです。この規模では、いちばん妥当な選択だったと思います。管理場所は1つ、ビルド不要、CMSが落ちればサイトも落ちるという単純明快な構造。

    選ばなかったのは学習目的が大きいのですが、正直に言えば「新しい構成を試したかった」という動機が最初にあり、理屈は後から整理した部分もあります。

    この構成が向いている人

    一通りやってみて、こう思っています。

    向いている

    フロントエンドの表示を完全に自分で制御したい人。React/Next.jsを実践的に学びたい人。すでにWordPressの資産と運用の慣れがある人。サイトが一時的に壊れても困らない立場の人。

    向いていない

    とにかく早く公開したい人。運用に手をかけられない人。止まると業務に影響が出るサイトを作る人。管理場所が増えることを許容できない人。

    最後の点が重要だと思っています。今回の構成は部品が増えたぶん、壊れる箇所も増えました。実際、公開までにSSL証明書、DNS、環境変数、ビルド設定と、それぞれ別の理由で止まっています。

    そのすべてが学びになったのは、これが止まっても誰も困らない自分のサイトだったからです。同じ構成を仕事で採用するなら、この「壊れる箇所の多さ」を運用体制で引き受けられるかどうかが判断の分かれ目になります。

    技術選定に唯一の正解はありませんが、何を得て、代わりに何を失ったのかを説明できる状態にはしておきたい——今回それを整理してみて、そう感じました。