カテゴリー: 使っているもの

作業環境で実際に使っている道具の記録。良かった点と合わなかった点の両方を書く。

  • Cornix LP(白):打てなくなったのは、指ではなく手順だった

    Cornix LP(白):打てなくなったのは、指ではなく手順だった

    きっかけは自作キーボードでした。ネットで見かけて興味は湧いたのですが、部品を選んで組み立てるところまでやるのは難易度が高そうだと感じて、手が止まっていました。

    やりたいのは自作そのものではなく、分割配列とレイヤーを使ってみることのほうです。それなら完成品で確かめられます。注文したのが7月9日、手元に届いたのが9月5日でした。

    この記事で扱うこと

    自作ではなく完成品を選んだ理由、カラムスタッガード配列に移って何が崩れたか、崩れた場所が予想と違っていたこと、日本語と英語の切り替えをどこに置いたか、そして慣らすためにやったことです。

    試したいのは配列で、組み立てではなかった

    自作キーボードの記事を読んでいると、配列やレイヤーの話と、はんだ付けや部品選びの話が同じところに並んでいます。両方まとめて「難しそうなもの」に見えていました。

    分けて考えると、自分が知りたいのは前者だけです。組み立ては、そこへ行くための手段であって目的ではありません。完成品なら手段のほうを飛ばせます。

    もし配列が自分に合わなければ、そこで終わりにできます。合うと分かってから組み立てを考えればよく、順番としてはこちらのほうが安いはずでした。

    崩れたのは、指ではなく手順だった

    届いた日から使い始めて、最初に分かったのは「打てない」ではなく「打ち方を思い出せない」ということでした。指が動かないのではなく、指をどこへ出すかを決めている手順のほうが止まります。

    分割キーボードに移ると、まず手の置き場所が変わります。左右が離れるので、肩を開いたまま構えることになります。ここは変わることが分かっていたので、身構えていました。

    実際に困ったのはそこではありませんでした。手の位置にはすぐ慣れました。戻らなかったのは、指がどこへ行くかを決めている手順のほうです。

    いままで使っていたキーボードは、段ごとにキーが横へ少しずつずれて並んでいます。Cornix LPは、縦の列がまっすぐ揃っています。この違いは見た目としては小さいのですが、特定のキーだけを狙い撃ちで壊しました。

    Nだけが、いつまでも当たらない

    いちばん間違えたのがNです。

    これまでNは、右手の人差し指を少し左下へ潜り込ませるようにして打っていました。段がずれているので、その斜めの動きの先にNがあったからです。

    列がまっすぐ揃うと、その「左下へ潜る」動きの先にNはありません。頭ではNの位置を知っているのに、手はいままでどおりの斜めの動きを出します。知っていることと、打てることが別だと分かったのがこの瞬間でした。

    いままでのキーボード Cornix LP
    キーの並び 段ごとに横へずれる 縦の列がまっすぐ
    指の動き 斜めに潜り込む動きが混ざる まっすぐ上下に動かす
    覚え直すもの — キーの位置ではなく、指の出し方
    「慣れる」の中身が、想像と違っていた

    慣れるというのは、新しい位置を覚えることだと思っていました。実際にやっていたのは、すでに体に入っている動きを消す作業のほうです。

    覚えるのは足し算なので、時間をかければ進みます。消すのは引き算で、こちらは意識して同じ場所を何度も通らないと減りません。壊れたキーだけが何日も残ったのは、そのためでした。

    「ー」は、そもそもその場所にない

    もうひとつ引っかかったのが、長音の「ー」です。

    Nは位置が変わっただけですが、こちらは事情が違います。キーの数が絞られている配列なので、そのキーが同じ面に出ていません。別のレイヤーを押しながら打つことになります。

    日本語を書いていると「ー」は頻繁に出てきます。1文字打つのに指を2本使う状態がしばらく続いて、ここは位置を覚える以前の話でした。

    日本語と英語の切り替えは、レイヤー①のAとSに置いた

    設定でいちばん効いたのがここです。

    日本語と英語の切り替えを、レイヤー①のAとSに割り当てました。ホームポジションの左手そのままの位置なので、切り替えのために手を動かす必要がありません。

    AとSに分けたのは、押した結果がひとつに決まるようにするためです。ひとつのキーで交互に切り替える形にすると、いまどちらなのかを覚えていないと押せません。Aなら必ず一方、Sなら必ずもう一方にすれば、現在の状態を知らなくても正しく押せます。

    切り替えより、指定のほうが軽い

    交互に切り替える方式は、キーが1つで済むぶん得に見えます。ただし押す側は「いまどちらか」を持ち続けることになります。

    直接指定してしまえば、覚えておく必要そのものが消えます。キーを1つ余分に使いますが、頭のほうが軽くなりました。

    慣らしに使ったのは、ゲームだった

    Nと「ー」を直すために、寿司の名前がついたブラウザのタイピングゲームを使いました。

    ふだんの作業の中で直そうとすると、うまくいきません。書きたいことがあるので、打ち間違えたら直すことより先へ進むことを優先してしまうからです。間違えた動きが、そのまま通ってしまいます。

    ゲームなら、打つこと自体が目的になります。間違えればその場で分かるし、同じ文字が何度も出てきます。間違いを見逃せない状態を、わざわざ作るための道具として使いました。

    合わなかったところ

    まず、移行の期間は仕事が遅くなります。これは製品の問題ではありませんが、締め切りの近い時期に切り替えるものではないと思いました。

    それと、キーの数が絞られているぶんレイヤーの設計を自分でやることになります。買ってすぐ最適な状態にはならず、使いながら直していく前提のものです。ここを面倒だと感じるなら、合わない可能性が高いです。

    それと、この記事はまだ慣れている途中で書いています。Nと「ー」は日ごとに良くなっているところで、何日で元の速さに戻るかは、まだ言える段階にありません。

    同じように、左右を無線でつないだときの安定性と、電池の持ちが数か月後にどうなっているかも、いま判断できません。使い続けて分かった時点で、この記事に足します。

    今回の学び

    まず、難しそうに見えるものは、たいてい二つ以上が束ねられていること。自作キーボードが難しく見えていたのは、配列の話と組み立ての話が同じところに並んでいたからでした。分けてみると、試したいほうだけを完成品で先に取れます。

    次に、身についた動きは、知識では上書きできないこと。新しい位置を知っていても、手は前の動きを出します。覚え直すというより、前の動きを消す作業でした。

    そして、全体が変わっても、壊れるのは一部だけだということ。配列を丸ごと変えたのに、実際に困ったのはNと「ー」に集中しました。全部が等しく難しくなるわけではないので、どこが壊れたかを特定できれば、直す範囲はかなり小さくなります。

    さらに、状態を覚えさせる操作は、それだけで重いこと。交互に切り替える方式は操作の数こそ少ないのですが、押す前に現在の状態を思い出す必要があります。直接指定に変えたら、その手間がまるごと消えました。

    最後に、直したい癖は、本番では直らないこと。本番には別の目的があるので、間違いを見逃す動機が働きます。間違いを見逃せない場所を別に用意するほうが、結果的に早く済みました。

  • Bose QuietComfort Ultra Earbuds — 「自動で切り替わる」に期待しなくなった

    Bose QuietComfort Ultra Earbuds — 「自動で切り替わる」に期待しなくなった

    作業はMacBookとiPadを行き来しながら進めます。調べものや資料はiPad、書くのはMacBookという分け方です。

    音は完全ワイヤレスのイヤホン1つで賄っています。2台あるのにイヤホンは1つなので、どちらの音を出すかを決める作業が毎回発生します。

    この記事で扱うこと

    2台を行き来する使い方で何が面倒になるか、自動で切り替わることに期待しなくなった理由、そしてノイズキャンセリングを常時オンにしている理由です。

    2台をまたぐと、必ず「どっちの音か」が出てくる

    1台だけで使っているうちは、この問題は存在しません。つなげば鳴る、それだけです。

    2台になると、イヤホンはどちらの音を出すかを選ばなければいけません。そして選び方は2つしかありません。機械に決めさせるか、自分で決めるか。

    最初は前者を期待していました。音が鳴ったほうに勝手に移ってくれるのが、いちばん手数が少ないはずだと思っていたからです。

    期待していたことと、実際にやっていること

    買う前に期待していたこと いま実際にやっていること
    音が鳴った側へ勝手に移る イヤホンを長押しして、自分で移す
    意識しなくていい 移すときだけ意識する
    手数はゼロ 手数は1回

    手数だけ見れば期待どおりにいっていません。それでも、いまのほうが困っていません。

    推測が外れたときのほうが、高くつく

    機械に決めさせるということは、「いま鳴っているこの音を、この人は聞きたいはずだ」と推測させるということです。

    推測は当たることもあれば外れることもあります。外れたときは、なぜ音が来ないのかを調べ、どちらにつながっているかを確かめ、戻す、という手順を踏むことになります。1回の手数を惜しんだ結果、何倍もの手数を払います。

    長押しで、自分で移している

    いまはイヤホン側を長押しして、つなぐ先を自分で切り替えています。

    作業の流れとしては、iPadで資料を見ながら音を聞いていて、書く段になってMacBookへ移る、という場面がほとんどです。移るタイミングは自分が決めているので、切り替えの操作もその流れの中に収まります。

    自分で決めるなら、外れない

    手数は1回増えますが、その1回は必ず狙いどおりになります。推測が外れる可能性がゼロになるので、つながり先を確かめる手間が消えます。

    「自動でやってくれる」の価値は、手数が減ることではなく考えなくてよくなることにありました。考える必要が残るなら、手数だけ減っても意味がありません。

    ノイズキャンセリングは、常にオンにしている

    ここも同じ話です。

    環境に合わせて切り替える使い方もできますが、自分は常時オンで固定しています。理由は静かだからというより、「いま要るか」を毎回考えなくて済むからです。

    切り替えられる機能は、切り替えるかどうかの判断を毎回発生させます。1回あたりは数秒でも、1日に何度も出てくると、そちらのほうが重くなります。

    固定してしまえば、イヤホンを着けた瞬間から作業に入れます。判断を1つ減らすために、選べる自由のほうを捨てている形です。

    合わなかったところ

    長押しでの切り替えは片手でできますが、どちらに移ったかは音でしか分からないのが少し不便です。無音のときに切り替えると、確かめる方法が「何か鳴らしてみる」しかありません。

    それと、これは製品というより自分の使い方の話ですが、2台とも音を出している状況には向きません。片方で動画を流しながらもう片方で作業する、といった使い方をするなら、イヤホンを分けたほうが早いはずです。

    まだ書けないこともあります。長時間つけたときの耳の疲れ方と、電池の持ちが1年後にどうなっているかは、いま判断できる段階にありません。

    今回の学び

    まず、自動化の価値は手数ではなく、考えなくてよくなることだということ。手数が1回減っても、確かめる手間が残るなら差し引きで損をします。ここを取り違えると、自動のほうを選んで後悔します。

    次に、推測させる仕組みは、外れたときのコストで評価すること。当たっているあいだは快適なので、外れる場面を想像しないまま良いものだと判断してしまいます。実際に効いてくるのは外れたときのほうです。

    そして、選べることは、それ自体がコストになること。切り替えられる機能は、切り替えるかどうかを毎回考えさせます。使い方が決まっているなら、固定してしまうほうが軽くなりました。

  • Keychron Nape Pro — 1週間かかる、は誰の話か

    Keychron Nape Pro — 1週間かかる、は誰の話か

    キーボードの手前に置くポインティングデバイスを使い始めました。マウスへ手を伸ばす動作が消えます。

    レビューを読むと、だいたい「慣れるまで1週間はかかる」と書いてあります。自分は2〜3日で普通に使えるようになりました。

    速く慣れたという話ではありません。その1週間を、自分はすでに別のところで払い終えていただけです。

    この記事で扱うこと

    「慣れるまで1週間」という数字が誰の話なのか、慣れる対象を分けて数えるとどうなるか、そして買う前に見るべきなのは期間ではないという話です。

    何を置き換えたのか

    これはトラックボールの一種で、キーボードの手前に置いて、親指や指でボールを回してカーソルを動かします。

    マウスを使っていると、カーソルを動かすたびに右手をキーボードから離して横へ振ります。1回は小さな動作ですが、1日に何百回も繰り返します。手前に置くデバイスなら、その振る動作がなくなります。

    肩の開き方が変わるので、長時間の作業で姿勢が戻らなくなる感覚は減りました。ただ、それはこの製品でなくても、手前に置くデバイスなら得られる効果です。

    実際の置き方

    HHKBの手前にKeychron Nape Proを置き、左右に分かれた木製パームレストの真ん中に収めた机の上
    奥がHHKB、手前がNape Pro。左右の木がパームレストで、その間にちょうど収まっている。

    キーボードは HHKB Professional HYBRID Type-S で、その手前に Nape Pro を置いています。

    パームレストは左右に分かれていて、その真ん中に Nape Pro が入ります。分離型を選んだのは見た目の好みではなく、ここに置き場所が必要だったからです。

    一体型だと、この場所が空かない

    横に長いパームレストを置くと、キーボードの手前はそれで埋まります。手前に置くデバイスを使うなら、パームレストの形まで連動で決まります。

    デバイスを選んだ時点では気づいていませんでした。

    手は左右のパームレストに載せたままで、指だけでボールに届きます。木なので沈み込まず、手首の高さが一定に保たれます。

    キーボードに貼ってある付箋は、接続先の番号です。Nape Pro もキーボードも複数の機器に繋がりますが、どの番号がどの機器かは覚えていられませんでした。覚えておくことを前提にした仕組みは、たいていこうなります。

    「慣れる」は1つのことではない

    ここが今回いちばん考えた部分です。

    「慣れるまで1週間」と書かれると、1つの壁を1週間かけて越えるように読めます。実際には別々のものが3つあり、それぞれ独立して越える必要があります。

    慣れる対象 中身
    ボールでカーソルを動かす 指の動きと画面の動きが結びつくまで。狙った場所で止まらない期間がある
    手を右へ振らない姿勢 マウスを取りに行く動作が体に残っている。空振りする
    ボタンの割り当て どの操作をどこに置くか。決めて、指が覚えるまで

    マウスから乗り換えた人は、この3つを同時に相手にします。だいたい1週間、というのは妥当な数字だと思います。

    自分の場合、1つめは終わっていた

    その前に使っていたのが、ロジクールのトラックボールでした。

    つまり「ボールでカーソルを動かす」は、乗り換える前から体に入っていました。残っていたのは置き位置とボタンの割り当てだけです。2〜3日というのは、そのぶんが短くなった数字にすぎません。

    払っていないのではなく、先に払っていた

    そのロジクールのトラックボールを使い始めたときは、1〜2週間ほど操作に苦労しました。

    狙ったところで止まらない、細かい選択ができない、そのたびに手が止まる。あの期間はきちんとあって、しかも今回より長かったです。

    並べてみると分かりやすくなります。マウスからトラックボールへ移った時点で1〜2週間、そこからこの製品へ移って2〜3日。合計すれば、結局「1週間より長い」ところに着地しています。

    レビューの「1週間」は、間違っていない

    ここを取り違えないようにしたいと思いました。

    1週間という数字は、マウスから来た人にとっては正しいのだと思います。3つを同時に越えるならそのくらいかかります。書いた人が誇張しているわけではありません。

    問題は、その数字に「どこから来たか」という前提が書かれていないことです。前提が省かれた数字は、条件の違う人にそのまま当てはめられてしまいます。

    数字には、書いた人の出発点が含まれている

    「慣れるまで◯日」は、製品の性質だけで決まる値ではありません。製品と、その人が何を使っていたかの差で決まります。

    同じ製品でも、出発点が違えば別の数字になります。どちらも嘘ではありません。

    買う前に見るべきなのは、期間ではない

    そう考えると、検討している人が確かめるべきなのは日数ではなくなります。

    いま何を使っているか。マウスなら、上の3つを全部越えることになります。すでにトラックボールなら、越えるのは2つです。ここが分かれば、レビューの数字を自分向けに読み替えられます。

    逆に言うと、「何日で慣れました」とだけ書かれたレビューは、そのままでは使えません。読むときは、その人が前に何を使っていたかを探すことになります。

    正直に書いておくこと

    この製品はクラウドファンディングで手に入れたので、一般の発売より前から使っています。そのぶん使用期間はありますが、周辺の情報はまだ少ない状態です。困ったときに検索して出てくる記事の数は、定番の製品とは比べものになりません。

    それと、ここまで書いてきたのは操作に慣れるまでの話だけです。長く使ったときに手や肩がどうなるかは、まだ判断できる段階にありません。分かったらあらためて書きます。

    実際に割り当てているもの

    3つめの「ボタンの割り当て」は、慣れるというより決める作業です。決まっていないあいだは指が迷うので、そこが長引くと「まだ慣れない」と感じます。

    いま入れているのは次のとおりです。ボタンは短く押したときと長く押したときで別のものを出せるので、2つ書いてある行はその区別です。

    場所 短押し 長押し
    M1(手前・上) 右クリック —
    M2(手前・下) 左クリック —
    01(左上) 英数 Win
    02(左下) 戻る —
    03(右上) かな ボールジェスチャ
    04(右下) 進む —
    ホイール 上スクロール 下スクロール

    決め方の基準はひとつだけで、キーボードから手を離さずに済むものを優先することです。

    英数とかなを左右に分けて置いたのは、日本語入力の切り替えがいちばん回数の多い操作だからです。ここをキーボード側に取りに行くのなら、手前に置いた意味が半分なくなります。

    戻ると進むも、調べものをしているあいだずっと使います。これも本来は別の場所にあった操作でした。

    割り当ては、覚える数を増やさないほうに寄せる

    ボタンがあると、つい何か入れたくなります。ただ覚えていない割り当ては、無いのと同じです。

    いま入れているのは、どれも元から毎日やっていた操作の置き場所を変えただけで、新しく覚えることは増やしていません。3つめが早く終わったのは、そのぶんもあります。

    今回の学び

    まず、「慣れるまで◯日」は製品の値ではないこと。製品と、その人の出発点との差で決まります。数字だけを取り出すと、自分に当てはまるかどうかが判断できません。

    次に、前提が省かれた数字ほど、そのまま信じられてしまうこと。1週間という数字には「マウスから来た場合」という条件が付いていましたが、書かれていませんでした。書いた人にとって当たり前すぎる前提ほど、文章から抜け落ちます。

    そして、自分が書くときも同じ立場になること。「2〜3日で慣れた」とだけ書けば、同じ落とし穴を作ることになります。前に何を使っていたかを一緒に書いておかないと、読んだ人の役に立ちません。